糖尿病の方もインプラント治療は受けられる?
2025/4/1
糖尿病は、血液中に含まれる糖(血糖)の量が多くなる病気です。糖尿病の方は、日本国内に1100万人おり、治療を受けている方は600万人弱とされ、かなりの方が糖尿病を患っていると言えるでしょう。
糖尿病は、様々な合併症を引き起こすことが知られていますが、インプラント治療は誰でも受けられる?…実は避けた方が良い場合もありますのコラムでも触れたように、インプラント治療においても、いくつかの注意点があります。
今回は、そんな糖尿病とインプラントの関係について解説します。
糖尿病とは?
まず、糖尿病とは何かということからお話ししましょう。
糖尿病は、血糖値を下げる役割を持つ「インスリン」というホルモンの不足や、その働きが悪くなることによって血糖値が高くなる病気です。
余談ですが、明治時代までは、おしっこが蜜のように甘いことから、「蜜尿病」と言われていました。それが日露戦争後に糖尿病と現在の名前に変えられ、今に至ります。
上述のインスリンは、血液中の糖分をエネルギー源として細胞に取り込むのを助ける働きを担っています。糖尿病でインスリンの働きが不十分になると、細胞はエネルギーをうまく取り込めなくなり、体全体の様々な機能に影響が出ることがあります。
体がこのような状態になると、インプラントを含む外科手術や、その後の治癒過程において、様々なリスクが生じやすくなってしまいます。
インプラント手術に関連するリスク
では、糖尿病がある場合、インプラント治療で具体的にどのようなリスクが考えられるのでしょうか。手術中や手術後に関わるリスクについて見ていきましょう。
手術中の低血糖
低血糖は、血糖値が正常範囲よりも低くなった状態です。インプラント手術にある程度の時間かかると、その間は食事を摂れないため、血糖値が下がって低血糖を起こすことがあります。
手術中にあくび、冷や汗、頭痛などの症状が現れた場合は低血糖の可能性があり、重度になると意識を失うこともあるため注意が必要です。
手術中の高血糖
インプラントの手術中は、治療を受けている側は高いストレスにさらされます。すると、体内ではインスリンを打ち消す働きのあるアドレナリンがたくさん作られます。
その結果、先ほどの低血糖とは逆に、血糖値が急上昇して高血糖の状態になります。極端な高血糖は体に悪影響を及ぼすことがあるため、こちらも注意が求められます。
手術後の低血糖
インプラント手術後には、一時的に痛みや腫れが出ることがあります。特に手術後1~2日は炎症のピークとなりやすく、食事が摂りにくくなるかもしれません。
食事量が減っているにもかかわらず、普段通りに糖尿病の薬を使用すると、血糖値が下がりすぎて低血糖を起こす可能性があります。
術後感染症のリスク
糖尿病があると、体の防御機能(免疫力)が低下しやすくなります。そのため、インプラント手術後に細菌感染が起きやすくなってしまいます。
術後の感染は、傷の治りを遅らせるだけでなく、まれに全身的な感染症を引き起こすこともあります。
インプラント治療の成功を妨げるリスク
糖尿病は、インプラント治療自体の成功にも影響を及ぼすことがあります。
傷の治りが遅れる(創傷治癒遅延)可能性が高まる
創傷治癒遅延(そうしょうちゆちえん)は、傷の治りが悪くなるという意味の言葉です。
糖尿病の状態によっては、血管が硬くなったり狭くなったりする動脈硬化が進みやすくなります。傷を治すために必要な細胞や栄養素は血液によって運ばれるため、血流が悪くなると傷の治りが遅くなるのです。
これはインプラント手術後の傷口の治癒にも影響し、治癒期間が通常より長くなることがあります。
インプラント周囲炎のリスクが高まる
インプラントコラムでもよくお伝えしているインプラント周囲炎は、インプラントの周りの組織に炎症が起こる病気で、進行するとインプラントを支える骨が失われ、最終的にはインプラントが抜け落ちてしまうこともある、いわば「インプラントの歯周病」です。
糖尿病によって免疫力が低下していると、細菌に対する抵抗力も弱まるため、インプラント周囲炎が発症・進行しやすくなってしまいます。
骨との結合(オッセオインテグレーション)への影響
現代のインプラント治療は、チタンが骨と結合するオッセオインテグレーションという現象を応用しています。
骨との結合には、骨芽細胞という骨を作る細胞の働きが不可欠ですが、インスリンには、この骨芽細胞の働きを助ける作用もあると言われており、糖尿病でインスリンの働きが不十分だと、骨芽細胞の活動が低下し、オッセオインテグレーションが順調に進まないケースがあります。
糖尿病の方がインプラント治療を受けるためのポイント
ここまで、糖尿病に伴うインプラント治療のリスクについて説明してきました。しかし、糖尿病だからインプラントは絶対にできないというわけではありません。
以下の点に注意することで、治療を受けられる可能性は十分にあります。
血糖コントロールを良好に保つ
最も重要なのは、糖尿病の治療をきちんと受け、血糖値をできるだけ安定した状態にコントロールしておくことです。
インプラント治療が可能かどうかの明確な基準はありませんが、一般的にHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)という過去1~2ヶ月の血糖コントロール状態を示す検査値が、6.9%以下なら、手術を行うことに問題はないと言われています。
できるだけシンプルな治療計画を立てる
お伝えしたように、手術時間が長くなると、低血糖や高血糖のリスクが高くなります。
そのため、骨造成など処置が必要なケースもありますが、可能であれば、なるべくシンプルな術式や治療計画を選択し、体への負担を軽減することが望ましいでしょう。
事前に歯周病治療をしっかり行う
糖尿病と歯周病は切っても切れない関係です。歯周病が悪化すると糖尿病のコントロールも難しくなり、逆に糖尿病が悪化すると歯周病も進行しやすくなります。
インプラントを入れる前に歯周病の治療が必要な理由とは?のコラムでも解説したとおり、インプラント治療の前に歯周病の治療を徹底的に行い、お口の中の細菌数を減らしておくことで、糖尿病自体のコントロールの改善と、細菌感染を起こすリスクも減らせます。
歯周病と糖尿病のような疾患との関連性については、提携医院であるポラリス歯科・矯正歯科の「放っておくと全身疾患も?歯周病について詳しく解説」のコラムをご参照ください。
糖尿病のリスクをきちんと下げてインプラント治療の検討を
今回は、糖尿病とインプラント治療についてお話ししました。糖尿病をお持ちの場合、手術中・術後の体調変化や、傷の治り、感染、骨との結合など、インプラント治療において注意すべき点がいくつかあります。
しかし、お伝えしたように糖尿病だからといって、必ずしもインプラント治療を諦める必要はありません。糖尿病の方も歯科外来で抜歯などの外科処置が受けられるのと同じように、インプラント治療を受けることはできます。
ただし、糖尿病のリスクを減らすことは心がけておきましょう。インプラント治療を考えている場合は、糖尿病を十分コントロールしておく、歯周病治療を定期的に受けておくといった対策を行い、普段からリスクを下げておくことが大切です。
インプラントオフィス大通では、糖尿病をはじめ、様々なご持病をお持ちの患者さんのインプラント治療のご相談も受け付けております。札幌でインプラント治療を検討されている糖尿病の方や、ご自身の体の状態によって治療が可能かご不安な方は、ぜひ一度、札幌のインプラントオフィス大通までお気軽にお問い合わせください。